梅の練り香

あわれ春風に 嘆くうぐいすよ
月にせつなくも匂う 夜来香 この香りよ 
    夜来香(イェライシャン) 李香蘭

いまこぼれそうな梅のつぼみを、摘んで凝らして「練り香」をつくろうと思います。

空一面に広がる蕾も、かごに集めればいくばくもないものですが、暮れに切り捨てた枝でさえ蕾が艶々している様を見れば、このひとときの為に、おそらく乾坤一擲の想いで精を凝縮している植物の業を感じるのです。

梅は夜に香るのですよ、とハーバリストの鷺島広子先生が教えてくださったものですが、そういえば虎屋の羊羹に「夜の梅」というのがありました。

たとえば新月の、綾目も識れない深々とした夜に、梅の香りに包まれて逢瀬を忍ぶのも若い二人なら佳かろうなあ。やがて暖かい部屋に戻って、指先に絡んだ残り香をほどきあって・・・。

まあしかし、この齢になると夜露はただの毒だ。
夜霧よ今夜もありがとう、なんて言っていたら肺炎になるだろうなあ。
せんないけれども、日暮れてしまえば梅も桜もないのであって、ただ人生の残り香にひたひたと羊羹をかじって歯磨きして寝るわけです。

明日は雪中梅かな。

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