満州ノオト③赤い月

満州ノオトの続きです。

「紅い月」 なかにし礼

昨年12月23日に物故された作詞家であり作家である、なかにし礼さんの自伝的小説。
小樽から渡満し、関東軍の御用達の造り酒屋として栄華をなした一家が敗戦ですべてを失い、離散しながら日本に帰りつくまでを書き綴った一冊です。著者自身が述懐するように、これは生き地獄の道行き。
膨大な作詞活動を経てこの本が出版されたのが2001年とあるから、つまり50年以上を経ての上梓。あとで紹介する澤地久枝さんの「14歳」も出版が2015年。こちらも戦後70年の年月を経て書かれました。それほどの歳月に記憶を濾してなお生々しい。

 

なかにしさんが、九死に一生を得る想いで乗りこんだ引き揚げ船で流れていたのが「リンゴの唄」だったこと。それを「赤い月」とは別のインタビューで話しています。「日本ではこんな腑抜けた歌が流行っているのか」と心底から落胆して、それから二度とこの歌を聴く気になれなかったそうです。
ちなみに「リンゴの唄」の作詞は詩人のサトウハチロー。師匠の西條八十が、大作家ゆえの立場もあってか軍歌の作詞まで手掛けたのと対極にこの人は軍歌にはいっさい関わらなかった。そうした矜持も含めての「リンゴの唄」だったのでしょう。サトウハチローの話は、また後日。