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固定種のダイコンの春まき

固定種のダイコンの種まきです。品種は「みの早生」と「ときなし」どちらも非常に古い春まき用の品種です
固定種のダイコンの種まきです。品種は「みの早生」と「ときなし」どちらも非常に古い春まき用の品種です

固定種の春蒔きダイコン@さとやま農学校

種まきの季節です。お彼岸を過ぎて桃の花が咲きました。コロナウィルスのために不要不急の外出は控えていますが、ダイコンの種まきは不要不急どころか今やらなければいけない大事な作業です。ましてこの先、色々なものが足りなくなる恐れがあります。社会を支えるものづくりやサービスの、何がどう足りなくなるのか誰にも読めません。農家に今できることは、いつもと同じです。種をまくこと、育てること。今食べられるものを収穫すること。農家にテレワークはありませんが、むしろやるべきミッションがあること、しっかり立つ場所があること、地面があること、そのことを嬉しく思います。

 

さとやま農学校」も講座は中止なのですが、車で直接来られる受講生さんと折々に距離を取りながら作業をしています。むしろ都会の自宅にこもって情報にぐるぐるに覆われているよりも、いっとき情報を遮断して土に触れることの方がよほど健全でしょう。こもったままの生活は精神的に非常に堪えるし、それがひいては免疫を低下させるリスクがあります。
 

だから本当は「誰でも畑にどうぞ」と言いたいくらいですが、そうなるとまた過密状態になりかねないところが苦しいですね。そんなことを考えながら「さとやま農学校」の受講生の方と二人きりでダイコンの固定種の種を蒔きました。品種は写真にある「みの早生」と「ときなし」の二種類です。どちらも非常に古い品種です。3枚目の図は1949年つまり戦後間もないころの本ですが、ここにも両方の名前が見えます。戦前からある固定種のダイコンと言えましょう。

「さとやま農学校」で固定種のダイコンを春蒔きします。春まき用のダイコンは「ときなし」と「みの早生」が昔ながらの固定種です
「さとやま農学校」で固定種のダイコンを春蒔きします。春まき用のダイコンは「ときなし」と「みの早生」が昔ながらの固定種です

固定種の種が買える場所

固定種のダイコンの「ときなし」も「みの早生」も、近所のホームセンターで買いました。一緒に「金町こかぶ」も買いました。これも古い固定種のカブです。「固定種の種はどこで買えますか?」と、よく聞かれます。固定種ばかりを扱う専門の種苗小売りさんがインターネットや通販にありますが、こうした昔ながらの品種はホームセンターや、最近では百円ショップでも売っています。ちなみに、実際に自社圃場で新しい品種をつくったり、古い品種を維持したりする「種苗メーカー」と、そこから仕入れて小売り販売する「種苗商」とは別のものです(今は種苗メーカーの直販サイトも増えましたが)。
プロのダイコン専業農家であれば、ほぼ100%が最新の品種(交配種・F1)を選びますが、それと分極するようにいま増えている自家菜園の人向けに、このような固定種のダイコンが着実に残っているのです。新品種のように高くはないし種子の農薬消毒もありません。果菜類などの場合の収量は新しい品種ほど多くないですが、家庭菜園には十分です。収穫もそろわないのでむしろ少しづつ収穫できることは自給に向いています。100円ショップで売られている固定種の野菜の種は量目を減らして単価50円などの非常に使いやすい形になっていたりします(一般の種は量が多すぎて使いきれないことが多いですね)。こんな風に、固定種のマーケットは、ごく一部の人のものという領域を越えて、じつは意外に広がっているようです。

日本各地の固定種のダイコン

古い本からの図です。日本各地の固定種のダイコンの品種がたくさんあります。世界有数のバラエティーでしょう。このなかにも「時無(ときなし)」と「みの早生」がありますね。雲仙四月のように今はおそらく途絶えてしまったものもあります。なにしろ七〇年前ですから。それでも、一番上の段のメンバーのようにいまだに現役の固定種ダイコンもしくは、ここから品種改良されて今に至るダイコンも見えます。一番右にある「守口大根」は、今も貴重な在来種・固定種として残っています。世界でも類のない長さは耕土の深い土地柄・風土ゆえの恵みでしょう。この守口大根の種をよそで蒔いても、これほど長くはなりません。適地適作は、ダイコンのように多様性に富んだ固定種ほど大事になります。今はネットでなんでも買える時代なので、がさっと固定種をコレクター的に買って、まずはそれで満足してしまう人も少なくないし、私もそれはさんざんやってきていますが、まずはそうした品種で何が自分の畑に適しているかをよく見極めることが大事です。コレクターになって満足してはもったいないことです。

 

ちなみに、この表の中にある練馬大根の短系(石川県の松本佐一郎氏の育成)と宮重大根の中の早太り・切太り系統を交配させて選抜・固定したものが有名な加賀ダイコンの「打木源助」です。これも加賀の砂丘に向いた品種ですので、今も地域の在来種となっていますが、「打木源助」の種については、種苗会社による生産販売は昨年で打ち切られたようです。ちょっとややこしい文章だったかもしれませんがつまり、上にある固定種を交配した交配品種(F1)から「これはいいな」というものを選んで種取りを続けていくと、これが代を重ねて「固定種」になるという流れです。交配品種と固定種との関係はしばしば誤解されるのですが、両者は対立するものでなくて、自然界にあっても交雑、分化、淘汰、適応という流れでつながっているわけです。
 

大根は、米を食べる食文化に欠かせません。煮る・漬ける・生でも蒸しても、おろしても、非常に豊かに私たちの職を支えてくれるダイコンは、こんなときこそもっと作りたいですね。