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自家採種ニンジンの間引きとリビングマルチ

自然農で自家採種したニンジンの間引き@さとやま農学校・すどう農園
自家採種したニンジンの間引き@さとやま農学校

こんにちは。

 

神奈川・相模原の里山(相模湖)で自然農を営む「すどう農園」です。

 

自給のための無農薬の野菜づくり教室・さとやま農学校」も、後半に入りました。

 

ここまで来ると、かなり皆さんのスキルも上がってきます。春から初夏、そして夏の猛暑と、少しづつ手を動かしてきただけの成果が見えてきます。そもそも畑仕事は特殊な技能ではありませんから農作業をしただけ上手になっていきます、あとは、野菜も土も空もひっくるめて、自然界を観察する・感じる感性を開いていくことです。これは決してオンラインではできないこと。土に指で触れるだけで体の中から、ぐうんと変わるものがあります。まして裸足で土に立てばもっと感じる部分は大きいのです。フローリングの床や畳の上で裸足になるのとは別次元の感性を必要としますから。

自家採種した固定種のニンジンの間引きをしています。ニンジンの間引きは、発芽の様子を見ながら数回に分けて間引きを繰り返すのがコツです。そうして元気なニンジンを選びながら育てていきます。これは、自分で人参の種取りをするにあたっては、とても大事な作業。畑の風土に適したニンジンが選ばれていくことで、その畑ならではの固定種になります。ですから市販の固定種の種を買っても、それはあくまでもよその畑で取れたものです。時には風土の違う外国産だったりしますね。それを年々、種取りを繰り返すことで自分の畑のニンジンにしていくわけです。このことはどの野菜にも通じることです。そうして年々、あるいは代々受け継いだ種は大事な宝物。近年ではヨーロッパから輸入されたエアルーム(heirloom)種子も売っていますが、これは農家に代々受け継がれてきた、文字通り「家宝」としての種です。ただし、あくまでも遠く離れた異国の畑で受け継がれた家宝ですから、日本の私達の風土に適するかどうかはまったく未知数です。ヨーロッパの家宝を買って満足するだけでは意味がありません。トマトなどは私も色々試しましたが、無惨な結果に終わったことも数多くあります。育種の世界では導入といいますが、まったく違う環境に連れてきて、時間をかけて美味しい野菜にするのは簡単なことではありません。

ニンジンの種まきの畝は太陽熱で高温処理をしているので雑草が生えていませんが、それでもスベリヒユがいちはやく育って来ます。スベリヒユは、オメガ3を多く含むスーパーフードです。山形県では「ヒョウ」と呼ばれる在来野菜です。先端の若い部分を摘んで、さっとお湯にくぐらせれば、モロヘイヤやツルムラサキと一緒に、出し汁などかけて頂きます。食欲の落ちた夏に貴重な旬の味です。

 

このスベリヒユのなかで、立性の品種は、フランスではプルピエと呼ばれて野菜としての種も売られています。ヨーロッパでも東南アジアでも、野ウサギや水鳥などが市場で売られているし、野菜も同様に、オオバコやタンポポ、アザミなど、野生味の残ったものが豊富ですね。どうも日本人の嗜好は、野菜でも動物でも、完全に飼いならされたものに依り過ぎているように思えます。

 

話は戻りますが、スベリヒユの株元を御覧ください。小さなニンジンの芽が出ていますね。スベリヒユは茎に水分が多いので、比熱が大きいぶん日陰は真昼でも熱くなりすぎません。株元周辺はしっとりと湿り気を残してくれます。これがニンジンを守ってくれます。ニンジンの種まきには籾殻や稲わらを敷きますが、お米を育てていないとそうしたものは使えません。だから身の回りのあるものとなると、このスベリヒユがありがたい。しかも食用になる。このスベリヒユのように、生えた状態で表土のマルチとして使うものをリビングマルチと呼びます。

このように、身近にあるものをよく見て大事にすることが自然農やパーマカルチャーの基本です。ニンジンの発芽には敷き藁か籾殻、と頭っから決めつけてインターネットで注文する前に、身の回りを探す。「ないものねだり」から「あるものさがし」へ。それが面白いのです。

 

「猛暑の恐れ!」を連呼していた天気予報が、そろそろ秋雨前線と言い出しました。種まきの準備が始っています。おそらくはまた5月と同じくらいの変動の激しい9月になるでしょう。ジェットコースターのようなアップダウンの天気の中で野菜を育てていくのは、難しくもあり、お天道様とやり取りしている手応えもあります。こんなことが言えるのも、自給ベースの菜園づくりだからこそですが、まだまだ秋に向けて各地の農村は大変な季節を迎えます。どうぞ無事に収穫の秋が迎えられますよう。